南スーダンの国内避難民キャンプで人を育て、争い予防のしくみを作る
認定NPO法人REALs(Reach Alternatives)(東京都新宿区、理事長瀬谷ルミ子、以下REALs)は、南スーダンの首都ジュバに位置するマンガテン国内避難民キャンプで、争い予防の人材育成としくみづくりの事業を開始します。
南スーダンでは武力紛争や相次ぐ災害により約220万人が元々の居住地を追われ、国内避難民として生活しています(2022年10月、UNHCR)。食料や水・衛生など基本的な資源も不足するなか、国内避難民キャンプやその周辺で暮らす人の多くは、限られた資源を巡る対立や緊張状態に置かれています。事業地となるマンガテン国内避難民キャンプでは、特に活動する支援団体が少なく、キャンプ住民と周辺住民の間で激しい衝突が確認されています。
REALsの事業では、現地で争いの予兆や発生に気付き適切に対応できる人材を育成します。また、育成された人材から地域の人たちに争い予防や共存、ジェンダーに根差した暴力の防止について広める啓発活動を行い、地域で取り組む争い予防のしくみを整えます。地域で暮らす住民自身が主体となって争いを防ぐ力を持ち、より安心して生活できるよう活動を行います。
南スーダン、220万人が国内避難民になるなかで
2022年7月、南スーダンは主権国家としての独立から11年を迎えました。独立後も武力紛争や政治的混乱が続いていましたが、2017年に停戦が実現、2018年には「南スーダンにおける衝突の解決に関する再活性化された合意」が締結され、2021年からは憲法制定プロセスも開始されています。
和平に向けた第一歩は成された一方で、その実施には遅れが出ています。社会的・経済的混乱が続くなかで、相次ぐ洪水や農作物の不作などが重なり、同国で人道支援を必要とする人は約890万人に上ります(2022年3月、OCHA)。武力紛争も各地で散発しており、安全のために居住地を逃れざるをえなくなる人も多く、2022年3月までには約220万人が国内避難民になっています。
国内避難民の避難を受け入れる側の地域にも余裕がない場合が多く、国内避難民キャンプやその周辺地域に暮らす人たちの多くは、限られた資源を巡る対立や緊張関係が暴力的な争いに発展する危うさのもと暮らしています。
マンガテン国内避難民キャンプの状況
REALsが事業を行うマンガテン国内避難民キャンプでは約15,200人が生活しており、その周辺地域では約8,600人が暮らしています。同地域で活動する支援団体は他地域に比べても限られており、キャンプの住民と周辺地域の住民の間では、地域の衛生環境や井戸などの設備利用、両者の居住環境などを巡る対立が起こっています。
REALsが2022年7月に行った聞き取りでは、同キャンプに居住する多くが非常に高いストレスにさらされており、トラウマやうつ、アルコール依存症、家庭内暴力などの問題を抱えていることが分かっています。そうした環境のなかで弱い立場に置かれやすい女性や子ども、高齢者、障がい者などが特に暴力の被害を受けています。
マンガテン国内避難民キャンプの治安は、一時は支援団体が撤退せざるをえないほど悪化しました。そんななか、住民たちと信頼を築き活動できている数少ない団体がREALsです。そうした状況の再発を防ぎ、キャンプや周辺地域の住民が安心して暮らしていけるように、地域の幅広い人の声を反映した争い予防を可能にしていくことが求められています。
争い予防の担い手を育て、地域で取り組むしくみを作る
上記のような状況を受けて、REALsはマンガテン国内避難民キャンプで、以下の活動を行います。
■避難民・住民45人に対し、争いや暴力の「早期警戒・早期対応」研修を実施
地域で発生しやすい争いや暴力について、予兆や傾向などを研修で共有し、早い段階で気付いて対応することを可能にします。また、争いや暴力に気付いた際に非暴力的な手段で解決できるよう、研修では傾聴や問題分析、ファシリテーションの手法なども扱います。
研修対象は、現在国内避難民キャンプや周辺地域の自治を担っているリーダーや指導者に加えて、18~35歳で、コミュニティの平和への貢献意欲の高い人たち(ユース・リーダー)です。現役のリーダーや指導者は中高年の男性がほとんどですが、ユース・リーダーの選出により、女性や若者、指導者層とは異なる民族の出身者など幅広い層の声を取り込んで活動を行います。
■争い予防で連携する地域でのしくみづくり
南スーダンの国内避難民キャンプでは、住民と警察などの治安組織がお互いに不信感を抱えていて、住民が危険に遭ったときも通報すらできないというような場合があります。連携会合を行うことで、双方の不信感を払しょくし信頼関係を築くとともに、連携体制について具体的に協議することで地域での争い予防のしくみづくりを行います。また、地域の治安における課題を共有することで、争い予防に必要な共通認識を作ります。
■国内避難民キャンプや周辺地域でパトロール・実際の事例に対応
研修を受けた指導者、ユース・リーダーから15人を選び、コミュニティフォーカルパーソンとして、地域のパトロールを行います。コミュニティフォーカルパーソンは他の指導者やユース・リーダーと連携して、パトロールによって発見された争いや暴力の予兆を早期に特定し、その解決に向けた対応を行います。特定された予兆、事例、結果はデータベースに入力され、REALsが分析して活動の改善・改良を行います。
■キャンプや周辺地域の住民500人に啓発セッションを行い、争い予防を地域に広める
地域の住民に争い予防の知識を広めていけるように、研修を受けた指導者、ユース・リーダーとともに現地で必要な啓発テーマを検討し、啓発教材を作成します。啓発テーマは「暴力と非暴力」、「調停と対話」、「立場が異なる人たちの共存」、「ジェンダーに根差した暴力・ジェンダーの役割 」などを予定しています。
作成された教材を用いて、指導者、ユース・リーダーから国内避難民キャンプや周辺地域の住民500人に啓発セッションを行います。セッションでは劇やロールプレイも交えて、一般の住民にも分かりやすい工夫をします。
マンガテン国内避難民キャンプやその周辺地域で暮らす人たちが主体となって争い予防を行う力を持ち、より安心して生活していけるように、活動を行っていきます。
本事業はREALsへのご寄付と、ジャパン・プラットフォームの助成により実施しています。
認定NPO法人REALs (Reach Alternatives)
REALsは争い予防に取り組む認定NPO法人です。現在の活動地は、アフガニスタン、シリア、トルコ、南スーダン、ソマリア、ケニアです。REALsは紛争やテロなどの争いを防ぎ、人と人が共存できる社会の実現を目指しています。争いの当事者となった人たちが、主体的に問題の予防や解決に取り組んでいけるように、REALsは現地での人材育成や争い予防のしくみづくり、社会のネットワーク構築などを行っています。