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一人ひとりの悩みに寄り添う支援のかたち ~トルコで避難生活を送るシリア難民への法律・制度に関する支援~
REALsがこれまでトルコ共和国南部に位置するメルシン県で、実施してきた事業と、現地のシリア難民の人々のストーリーをご紹介します。
REALsは避難生活が長期化するなかでシリア難民が抱える問題が多様化してきたことを踏まえ、より個別かつ具体的な解決策を提示するため、2018年6月から「シリア難民への情報提供・個別支援事業」を実施してきました。
2019年4月-10月に実施した活動内容
2011年3月に発生したシリア危機から丸9年が経ちました。トルコで避難生活を送るシリア難民は、2020年4月時点で358万人以上に上ります。ただし、この数字は正式に登録されている数であり、このほかに登録されていない難民も多数存在します。長い避難生活によりシリア難民一人ひとりの生活状況が多様化するなか、言葉の壁や情報不足よって得られるはずの支援が受けられない難民が今でもたくさんいます。想像してみてください。もしあなたが戦争により日本を追われ、突然言葉の通じない国で生活を始めなければならなくなったとしたら…。
REALsは、そんな難民一人ひとりの抱える問題を1つでも多く解消・解決することができるよう、私たち以外にシリア難民支援を行う団体がほとんどいないメルシン市のアクデニズ地区、イェニシェヒル地区、トロスラル地区、メジットリ地区の4地区と、市の西に隣接するエルデムリ地区で、以下の支援を行ってきました。
* 誰でも利用できる相談窓口と家庭訪問を通じた、情報の提供と助言
* 法律に関する個別相談、心の不安や悩み相談のカウンセリング
* 行政手続きや病院などで必要なトルコ語の通訳支援
* トルコでの権利や法律に関する情報提供セミナー
* 長期化する避難生活でジェンダーに基づく暴力(GBV)の発生を予防するための啓発セッション
* 困窮する難民世帯が食糧・物資の購入をできるようEバウチャー(電子マネーカード)と支援金の配布
これまで1年4カ月(2018年6月~2019年10月)の間に、REALsが提供した支援を通じて、8,341人のシリア難民とイラク難民に支援を届けることができました。
2. 権利や法律に関する支援
トルコとシリアで法律・制度は大きく異なります。トルコに避難してきた難民の多くはシリアでの身分証などを一切持たず、着の身着のまま避難し、生き延びるため、子どもや家族の命を守るため、あらゆる手段を使ってトルコ国境を越えてきています。そうした難民がトルコ政府による保護をきちんと受けるためには、政府発行の「一時保護身分証」を取得する必要があります。この身分証があって初めて合法的にトルコに滞在することができ、トルコ政府の提供する医療や教育などの様々な支援サービスを得ることができるのです。
しかし多くの難民は、自分たちに関わりのある法律や制度にどのようなものがあるのか、どういった手続きを行う必要があるのかなどを、だれにも教えてもらえずに生活を送っています。そこでREALsは、権利・法律に関する情報を提供するため、2つの活動を行ってきました。一つは権利法律カウンセラー(弁護士)による個別の相談、もう一つはトルコの法律や制度に関するセミナーの実施です。
- 権利法律カウンセラーによる個別の法律相談
プライバシーを守ることのできる個室で、権利法律カウンセラーが難民の抱える悩みや困りごとを聞き、それに対してトルコの法律に基づく適切な解決・解消の方法を助言するというものです。2019年4月から10月までに、126人がこのサービスを利用しました。相談の内容は、一時的身分証の申請や更新手続き、結婚の手続き、離婚の手続き、離婚調停支援、家族証明書の発行手続き、障がい者手当の申請手続き、交通事故等による民事裁判、医療診断書の再発行など、多岐にわたりました。
トルコでの権利や法律に関する情報提供セミナーの開催
より多くの難民が、トルコで得られる権利や関連する法律・制度を知り、より安心した生活が送れるよう、権利・法律セミナーを開催しています。(1)一時保護身分証など複数ある身分証の違い、(2)一時保護身分証を登録した都市以外への移動制限や他国への移動、(3)結婚・離婚・新生児の登録・更新、(4)トルコで合法的に働くための許可手続き、の4つのテーマを中心に、19回開催し、300人の難民が参加しました。
参加者からは「新しい情報をたくさん得ることができた」「参加してよかった」などの声を聞くことができました。
3.個別法律相談を受けたナディアさんのストーリー
ここで、個別の法律相談を受けた、シリア難民女性のナディアさん(仮名)のストーリーをご紹介します。
我が子の一時保護身分証の取得
シリア難民のナディアさんは、生まれたばかりの娘レイラちゃん(仮名)の一時保護身分証を取得したいものの、どこへ行き、どのような手続きをすればよいかわからず、REALsの相談窓口にやってきました。この一時保護身分証があれば、レイラちゃんは教育や医療など様々な公共サービスや支援を無償で受けることが出来るのです。
相談窓口へ行くと、権利法律カウンセラーに相談するよう助言され、個別法律相談を受けることになりました。案内された個室でナディアさんは権利法律カウンセラーに、まず、紛争の続くシリアから国境を越えてトルコのメルシン県に避難してくるまでの経緯を話しました。
トルコの国境付近の小さな村までなんとかたどり着いたものの、越境の準備ができるまで他の3つの家族と一緒にとても小さな家で1週間ほど待たなくてはなりませんでした。家には暖房設備もなく、周辺の道路は整備されておらず泥だらけで、棘のある植物や危険な野生動物も多く、とても不安でした。
何とか国境を超えることができましたが、ナディアさん一家は、トルコ国境を超えるために仲介業者に大金を支払わざるを得なかったため、現在のトルコでの避難生活が経済的に非常に厳しい状況にあることを訴えました。また、国境を超える際、ナディアさんは自分のシリアの身分証明書を紛失してしまい、ナディアさん自身も一時保護身分証を持っていなかったため、レイラちゃんの出産時に高額な金額を支払う必要のある病院には行くことができず、自宅で出産したそうです。出産後ナディアさんもレイラちゃんも、きちんとした健康診断を受けていないことを話してくれました。
REALsの権利法律カウンセラーは、ナディアさんに代わって移民管理局に直接連絡を取り、ナディアさんのための面談日を手配するとともに、申請書類の提出に必要な家族証明書の発行手続きやトルコ語の翻訳など、申請に必要な書類の作成を支援しました。
最初の面談から数週間後、レイラちゃんの一時保護身分証取得のための最後の面談が無事完了しました。その後、ナディアさんからREALsの権利法律カウンセラーに連絡があり、「レイラちゃんの一時保護身分証を無事に受け取りました。早速病院へ行き、母子ともに健康であることがわかり、安心しました。娘はその後も定期健診を受けることができています」との報告を受けました。
4. 今後の取り組みについて
2020年3月以降、トルコでも新型コロナウィルス感染症が拡大しており、対面での相談や、セミナーなどの人が集まるイベントの開催が非常に難しい状況となっています。しかし、REALsは難民の困窮や課題を解決する支援の手を止めないよう、現地スタッフの健康と安全を十分に配慮しながら、電話やSNS、オンライン・アプリケーションなども最大限活用し、活動を続けています。一人でも多くの難民の方々に支援を提供できるよう、また新型コロナウィルス感染・拡大予防のための情報を届けられるよう、引き続き活動に取り組んでまいります。
これからも、あたたかいご支援をどうぞよろしくお願いいたします。