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#世界難民の日|大切な人との別れや紛争の恐怖が「心」に与える打撃
食べたくない、寝たくもない。
いつも悲しく孤独で、何もする気が起きなかった。
6月20日は世界難民の日。
難民となった人の多くが、大切な人との別れの経験や紛争のなかで爆撃や暴力を目の当たりにしたこと、迫害を受けた恐怖などから、深い心の傷を抱えています。
難民の人たちが直面した恐怖について、レイラさん(仮名・20代)の経験を紹介します。
朝6時、銃声の音で目を覚まし、
1日が終わったときには家族や親戚の半分が亡くなっていた
シリアの農村で育ったレイラさん。
夏休みや休日に畑でお父さんの手伝いをすることが好きでした。
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トルコのシリアに近い地域の農地の写真
※プライバシーの保護のため、すべて本人とは関係のない写真を掲載しています
彼女は13歳のある朝、銃声の音で目を覚まします。朝6時くらいのことでした。
その日軍が村に来て、「革命に参加したから」と若い男の人たちを逮捕していきました。
いたるところで銃を使った暴力的な衝突が起こり、たくさんの人が命を落としました。
最初に「おじさんが亡くなった」と連絡を受けてから訃報は立て続き、
1日が終わるころには家族や親戚の半分の人が亡くなりました。
着の身着のまま家にあったお金だけを持ち出して、その日突然レイラさんの避難生活は始まりました。
安全を求めて 無人の村やテントの群れを抜ける
レイラさんは生き残った家族とトルコまで逃げることに。
国境を目指す旅は過酷なものでした。
無人の村で何日も過ごすこともありました。
レイラさんの故郷と同じように、軍の攻撃により住民がいなくなった村と思われます。
そうして辿り着いた国境の近くには、避難者となった何千もの人々がテントを張ったり、テントもない人は木々の合間でなんとか過ごしていました。
そうした恐ろしい光景を抜け、レイラさんの一家はトルコに辿り着きました。
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安全な生活をしているはずなのに
思い通りにならない心
トルコで暮らしはじめてからレイラさんは結婚し、2人の娘も生まれました。
新しい家族もでき、トルコで安全な生活を送っている。
しかし、レイラさんは次第に自らの異変を感じはじめます。
「食べたくない、寝たくもない。
いつも悲しく孤独で、何もする気が起きなかった。」
夫は優しい。だけど日雇い労働でなんとか家族を養ってくれているのに、相談してこれ以上負担をかけられない。
家族と一緒にいてもレイラさんの孤独や絶望は深まる一方でした・・・。
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紛争による心の傷
紛争のなかで大切な人を失ったり、爆撃などで命の危険にさらされたり、先の見えない不安な避難生活を送るなかで、多くの人が心に深い傷を負います。
2019年のWHO(世界保健機関)の発表によれば、紛争の影響下で生きる5人に1人が軽度のうつ病や不安障害などの精神疾患を抱えており、ほぼ10人に1人は症状が中等度から重度に及びます。
しかし、紛争下で受けられる精神的なケアは限られています。
REALsがシリア北西部の活動地で行った調査では、数十か所の避難民キャンプのうち心のケアが提供されていたのは36%のみでした。
また難民として心のケアが受けられる国に避難した場合も、言葉の壁や支援情報の不足などの背景からケアにアクセスできないという課題もあります。
紛争による心の傷をケアして
新しい環境で生きていけるように
REALsは難民となった人たちが適切なケアを受けて、新しい環境でまた生活を始めていけるように、心のケアの支援を提供しています。
レイラさんの場合は数か月をかけてトラウマとうつ病に関するカウンセリングを実施しました。
カウンセリングを通じて、レイラさんは紛争や避難の経験が自らに与えた衝撃に気付き、感じ方や考え方が変わっていくなかで、以下のように語っています。
「私は生き返りました。いまは幸せや、生きる価値のある人生があると思えます」
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カウンセリング後に談話するカウンセラー(右)とシリア難民の女性(左)
紛争や迫害により人生を翻弄された人たちが
もう一度社会のなかで生きていけるように
いま、紛争や迫害、災害などにより住んでいた場所を追われて避難生活を送る人の数は、世界全体で1億2千万人近くに及びます(※)。
日本の人口にも迫る数の人々が移動を余儀なくされるなか、難民や避難民となった人たちの生活をまずは安定させること、そして避難先で元々暮らしてきた人たちとともに過ごしていけるようにすることは、社会全体の安定を保つためにも欠かせません。
REALsは紛争や迫害により人生を翻弄された人たちがもう一度社会のなかで生きていけるように、心のケアや法律相談などの支援をはじめ、共存促進の活動や平和の担い手の育成に取り組んでいます。