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岐路に立つシリアの現場で、人々と動かし始めた平和構築(瀬谷ルミ子)
シリアでアサド政権が崩壊してから1年が経ちました。クラウドファンディングへの皆さまのご支援のおかげで、今年7月からリアルズ(REALs)による平和構築プロジェクトが始動しています。11月には理事長の瀬谷ルミ子とシリア事業担当の工藤絢花がシリアに現地入りし、プロジェクトを進めてきました。瀬谷ルミ子のレポートとともに、現在までの活動報告をシリーズでお届けします。
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シリアでは、十数年にわたる内戦と前アサド大統領による独裁政権が終わりを告げました。リアルズは内戦中も水、食料、心のケアなどの緊急支援を続けてきました。シリアはいま平和に向かうか、分断や混乱により戦争に逆戻りするかの岐路に立っています。
今年10月、私は事業担当の工藤とともにトルコ経由でシリア内戦の激戦地のひとつだった北部のアレッポとイドリブに向かいました。内戦終結から10か月経ちましたが、中心地も郊外も、今も至る所に破壊された建物とがれきがあり、内戦で破壊の限りを尽くされた爪あとが残ったままです。

シリアには今も外務省により退避勧告が出ています。リアルズの事業チームはみな定期的に危機管理の専門研修を受けていますが、治安情勢を逐一確認し、情勢が落ち着いているタイミングを確認したうえで、細心の注意を払い現地入りし活動を行っています。
シリアでは内戦に加え、過激派組織IS(イスラム国)により、かつて外国人ジャーナリストや援助関係者などが多く殺害されてきました。今回アラビア語の通訳を務めてくれたシリア人のイブラヒムは、元ジャーナリスト。2015年にシリアで武装勢力IS(イスラム国)に拘束・殺害された日本人ジャーナリストの後藤健二さんについても語っていました。
「俺たちシリア人ジャーナリストは、外国人メディアのたまり場に出入りしてアシスタントして手伝う仕事をしてたんだ。でも、イスラム国によるテロや外国人への拉致・殺害事件が多発したことで一気にメディアの注目が高まったから、俺含めて取材のイロハも学んだことなく外国人ジャーナリストの手伝いをしていたものが多かった。それを見かねて、ケンジは俺たちに研修をしてくれたんだ。『みんな集まれ、教えてやるよ』ってね。その後に彼がとても危険な地域に取材に行ったと聞いて、皆で心配してたんだ…」
シリアで「平和構築」の名のもとに行う取り組みには、大きな課題が立ちふさがります。シリア、とくに北西部は、長年の内戦でアサド政権、ロシア、イランを始めとする諸外国により「この地域には反政府勢力が潜んでいる。平和のためにこの攻撃は行われている」と、平和の名のもとに爆撃と軍事介入を受け続けたことから、『平和』という言葉に対して警戒心や不信感を持ってしまっているのです。現地であった人々は、市民団体の代表も含め、8割以上の人々が平和という言葉に抵抗感があると語りました。同時に、全ての人たちが、シリアに平和な状態が必要であり、ようやく訪れた機会を逃すわけにはいかない、どうしたらよいのか手だてを求めています。
このような地域では、リアルズは、平和や和解という言葉を使わないアプローチで最初のきっかけをつくります。対立・分断する集団がそれぞれ直面して解決したいと感じている課題を丁寧に聞き出して、共通のニーズを特定し、その課題解決に共に取り組むしくみをつくるのです。対立するより役割分担や協力関係を築く方が自分たちの生活が良くなっていくことを実感し、成功体験として次に再現することを常態化するのです。
シリアで分断・対立する集団にある共通のニーズの一つが「水の確保」です。
内戦終結で多くの避難民らが故郷に帰還しているが、建物や給水設備などが破壊されたままなので水や家も不足し、故郷に留まり続けた住民との間で緊張が高まっているからです。この対立が争いに向かうことを現地の人々は恐れています。
前回の活動レポートでもお伝えしたように、リアルズは今年6月に、シリア北西部で特にニーズが高い地域で給水設備の復旧を行いました。その結果、この地域の実に8割にあたる4000人近い住民たちが自宅の水道から水を得られるようになりました。

目の前の緊急のニーズに対応した私たちと住民の間の信頼関係も深まりました。「平和について、一度話をしてみよう」「真の変化がもたらされるかもしれないから、やってみよう」と人々の心のベクトルが変化したのです。
現地では、さらに同様の水供給施設の修繕ニーズを抱える他の地域の調査も行いました。

シリア北部の破壊された給水施設と住民のニーズを現地政府の担当者とともに確認する瀬谷と工藤
また、今年の夏以降、リアルズはシリア北西部を中心に、平和構築の担い手育成を共に担う市民団体の育成候補者の選定を続けてきました。紛争解決、争い予防などの専門知識をリアルズは現地の人々に研修や事業を通じて移転しますが、最終的に現地の人々がそのノウハウを継承できることが必要です。そのため、より多くの若者、女性、市民に対して平和の担い手として必要な研修を将来的担うことができる候補を選定し、事業の開始から伴走して育成していきます。民族、宗派、性別などのバランスを取ることで公平性を確保することも重要です。そして、育成候補がようやく決定しました。
次回のレポートでは、研修について、またシリアで再会した若者についてお伝えします。







