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希望と喪失の狭間で ― シリアの国内避難民アフマドさんの物語
新たな使命を見つけたアフマドさん
シリア北西部の国内避難民キャンプで暮らすアフマドさん(42歳)は、長引く内戦の中でも希望を捨てない一人でした。2023年10月にREALsが実施する心理社会的サポートのプロジェクトにおいて、多くの避難民の中からコミュニティーワーカーとして選出されたのです。
「この研修で学んだことを活かして、同じように苦しむシリアの人々の心の支えになりたい」
トラウマケアの研修最終日、アフマドさんは目を輝かせながらそう語ってくれました。13年にも及ぶシリア内戦で故郷を追われ、避難民としての厳しい生活を送る中でも、彼は周囲の人々のために何かできることを常に模索していました。家族を支えながら、コミュニティのために尽くそうとする彼の姿勢は、研修に参加した他のメンバーからも一目置かれる存在でした。
突然訪れた悲劇
しかし、その希望に満ちた言葉が聞かれた翌日、私たちの元に衝撃的な知らせが届きました。日本時間の19時47分に緊急連絡があり、アフマドさんが家族と暮らす避難民キャンプが、シリア軍とロシア軍による突然の空爆を受けたとの報告がありました。

スタッフやコミュニティワーカーは避難民キャンプを離れていたので全員無事でした。しかし、アフマドさんの家族は違いました。空爆の際に避難民キャンプのテントにいた妻と2人の幼い子どもたちの命が奪われたのです。
癒えない傷、続く歩み
「家族と離れて研修に参加していなければ、一緒に亡くなっていたでしょう。でも、生き延びたことが果たしてよかったと言えるのかすら、今の自分にはわからない。」
すべてを失った彼のことを想い、私たちREALsのスタッフも、悲しみ、悔しさ、憤り、そして力不足を感じ、涙しました。
最もつらいのは当事者であるアフマドさんであり、同じような悲劇が10年以上続いているシリアの人々でした。どれだけ平和を望み世界に向けて訴えてもその声が届かず、自分たちで一歩でも前に進もうとしても、足元から道が崩れ落ちてきたのです。
耐え難い悲しみにより活動できなくなったアフマドさん。
しかし、彼と共に訓練を受けたコミュニティワーカーたちは力強く言いました。
「平和をあきらめない。彼の分まで活動を続けることが、今の私たちが自分たちの国と人々のためにできることだ。」
アフマドさんが経験した悲劇は、シリア紛争の残酷な現実を私たちに突きつけます。しかし同時に、彼の仲間たちの言葉には、どんな状況でも希望を捨てず前に進もうとする人々の強さが表れています。
彼らの声に耳を傾け、彼らの歩みを支え続けることが、遠く離れた日本からもできることのひとつでもあります。
皆様からのご支援は、シリアを始めとした紛争の影響を受ける地域で、避難民キャンプでのトラウマケア、争い予防と紛争解決の担い手の育成、そして市民主導の平和構築活動に役立てられます。アフマドさんのような悲劇を繰り返さないために、そして彼の仲間たちが懸命に続ける活動を支えるために、是非ご協力ください。