- ジェンダー
- 南スーダン
ジェンダーに基づく暴力(GBV)被害者支援・予防促進事業
2014年6月1日より、REALsは南スーダン共和国にて、イスラエルのNGOであるIsraAIDと連携して国内避難民(IDP)を対象に、ジェンダーに基づく暴力(GBV)被害者支援・予防促進事業を開始致しました。
2013年12月以降の紛争により多くの女性や子どもがIDPとなっており、紛争が原因で、特に女性に対する暴力が増加しています。GBVに関する対応は散発的に始まっているものの、総合的な支援の強化が必要とされています。
本事業は6カ月間の実施を予定しており、ジュバ市および近郊の国連施設外にある3つの集落に避難している5,000人のIDPと、その受け入れコミュニティを対象としたものです。
事業内容はGBV被害者の生活改善及びGBV予防を目的とした物資の配布、ジュバ市の紹介支援先(医療・司法・警察)の専門家に対する研修、そしてIDPに向けたGBVに関する啓発・研修等です。
国内避難民(IDP)への啓発の様子①―啓発活動
2014年女性グループへの啓発6月1日より、南スーダン共和国の首都ジュバにて、ジェンダーに基づく暴力(GBV)被害者支援・予防促進事業を実施しています。
とあるキャンプでのGBVに関する国内避難民(IDP)への啓発セッションの様子の写真が届きました。
女性だけのグループにしたり、少年だけのグループにしたり、状況に合わせてグループ構成を調整しながら、話しやすい環境作りが行われます。啓発用の施設がないところでは、日中日差しが強くても、話に集中できるように、木陰を選んで場所が決められます。
啓発セッションでは、「ジェンダーとは何?」「GBVって何?」「被害にあったときにどうすればいい?」「被害にあった知人にはどう接したらいい?」「誰に相談したらいい?」など具体例を交えてわかりやすく説明がされます。被害がなくなることが目標であることはもちろんですが、被害者がすぐ安全に支援される仕組みづくりもとても大事です。
この啓発セッションをリードしている女性たちも実はIDPの中から選ばれた人たちで、フォーカル・ポイント(FP)と呼ばれます。彼女らは別途GBVの専門家やソーシャル・ワーカーから研修を受けていて、GBV被害や予防に対しての理解を深めながら、学んだ内容を仲間のIDP達へ伝える重要な役割を担っています。
啓発セッションに参加した女性たちからは「1人だと危ないので水汲みにはみんなで行くことにした」とか「結婚していても無理矢理に性的関係を強要されるのはGBVであることが分かった」という声が聞かれます。FPが少しずつIDPの中でのGBVについての理解を促しているのです。
国内避難民(IDP)への啓発の様子②―女性グループの活動
GBV*は被害者が名乗り出にくい性質の為、なかなか被害の状況が表面に現れず支援が遅れてしまう傾向があります。その為、コミュニティーの中でGBV被害者を守ることのできる環境や、すぐに誰かに相談できる状況作りが大切です。
女性グループの様子通常のGBVの啓発活動の他に、女性グループ(各約30人)が各キャンプで組織され、38回の活動が行われました。彼女らは、得意の手作業を生かしてシーツへ刺繍をしたり、アクセサリーなどを作ったり、作り方を他の人に教えたりしながら、毎週集まって様々な話をする機会が与えられます。
この中で各自が情報収集をすることもあれば、皆の前でとにかく悩みを話す事でストレス軽減が出来たりします。日本でいうと昔の井戸端会議のような状況でしょうか。GBV専門家やソーシャルワーカー・フォーカルポイント達は、そのような自由におしゃべりをしている中からも、各自の様子を見守り、個別にサポートが必要な人がいれば別途手を差し伸べます。
グループの構成を部族毎に分けずにあえて混ぜた為、初めて他の部族と話をする機会が自然と生まれ、お互いを理解する為には、話すことが大切であると対話の重要さも感じとったようです。若者や子どもの割合が多い南スーダンで、母親達の意識を変えることは、母親から子どもへ直接伝わる意味でも効果的です。話し合いトピック選定の際に「平和構築について話したい」と、住民自らが提案する日がでるなど、女性も平和にとても関心があり活発な意見が交わされたそうです。
尚、作られた刺繍やアクセサリー等は、12月に行われたGBV被害撲滅キャンペーン(16 days of activism against GBV)などのイベントでも販売され、その売り上げの半分を使って、更に材料を仕入れるなど、収入源を少し得る事ができたケースも報告されています。
*GBV=Gender Based Violence/ジェンダーに基づく暴力
専門家研修の様子
6月から開始している「ジェンダーに基づく暴力(GBV)被害者支援・予防促進事業」での専門家研修の様子をお伝えします。9月2日に18名の警察官・弁護士・政府関係者・病院関係者・ソーシャルワーカー等を対象に研修が行われました。
GBV被害者に対して適切な支援が出来ているか、また課題は何かなどについて活発な話し合いが行われました。研修の理解度を測る為に、実際の事例についてどのように対応するか、グループに分かれての話し合いも実施しました。
少女がレイプ被害に遭った際の対応についての事例について、「どのように話を聞きますか?」との問いに関して「すぐに何が起こったのかについて聞くのではなく、やさしい言葉をかけ、彼女が落ち着いてからゆっくり話をしてもらう。」や「誰にも邪魔をされず、他者に話を聞かれないように、安全で少し離れた場所でカウンセリングを行う」等の回答があがりました。特に被害者のプライバシーを守った対応をすることについての理解は深く進んでいることが読み取れます。
今回の研修の中で課題として多く挙げられていたのは、司法に対する信頼がないこと、警察にどのように頼ったらいいか分からない人がいること、被害者が未成年である場合、父親に対しその被害を知らせるべきか、教えたくないと主張する被害者本人の意思に反して、知らせるべきなのか否か判断が難しい、などでした。父親に被害を知らせることで、加害者と結婚させられてしまうこともあるのです。様々な問題を共有・討議し、解決策が話し合われました。
GBV被害者は、精神的にも肉体的にも非常に苦しめられているため、きめ細やかで専門的な対応が必要です。このような研修を関係者が集まって行うことで、各自の理解を促し連携した質の高いサービスを提供することができるようになります。
被害者が希望を持って生きていけるための支援をすることが出来るのです。
ジェンダーに基づく暴力(GBV)被害者支援・予防促進事業 総括
2015年2月13日に、「ジェンダーに基づく暴力(GBV)被害者支援・予防促進事業」が無事終了いたしました。
事業期間を当初予定より延長して、約8ヶ月の間に以下の活動が行われました。
また、物資配布も合わせて行われています。
◯GBV被害者や被害に遭いやすい女性や子どもたちへの物資配布:916人
(物資中身:タオル・下着・石鹸・スリッパ・生理用品・櫛・体に巻く布など)
◯他団体から配布を受けていない人や新たに避難してきた住民への配布:約400世帯
(物資中身:ブルーシート・蚊帳・毛布・石鹸・洗面器・ゴザ・草刈り鎌など)
当初の予定にはなく、新たに現地のニーズを元に追加されたものがありました。チャイルド・フレンドリー・スペース(CFS)の設置です。草が茂っていて見通しの悪い場所が整備され、屋根のあるフリースペース(ガゼボ)と周辺に4種類の遊具(シーソー・ブランコ等)が2個ずつ設置されました。日中子ども達が安全に遊ぶ場所が確保され、母親達もガゼボなどから子ども達の様子を見守ることができる為、GBV予防としての効果が期待できます。
今事業で大きな役割を果たしたのがソーシャルワーカーとフォーカルポイントです。啓発活動の合間に家庭訪問を行って、家族構成や健康状態を把握したり、必要に応じて適切な支援に繋げたりしました。今まで警察などの専門家と住民達との間にはあまり接点がなく、不信感等から相談に行きづらい雰囲気があったこともあり、ソーシャルワーカー達が上手に間を取り持つ形で支援に繋げていったことが報告されています。
事業の中で以下も作成いたしました。
○支援先紹介リスト:
警察・病院・司法関係者・心理サポートについて対応可能な現地団体名や、担当者の名前・携帯連絡先が入っているもので、関係者に聞き取りをして最新版が作成されて、共有されています。
○啓発パンフレット:
英語とアラビア語で書かれた絵付きのGBV予防の為の小さなパンフレットで「夜暗い場所は1人で歩くことを避けよう、グループで行こう」などメッセージが入っています。こちらも最後のページには専門家の連絡先が入っています。
11月に聞き取りをした1名のフォーカルポイントのコメントです。
「初めてこのキャンプに来た時、紛争から逃れるため、村を逃げ出していた私は困惑していましたが、キャンプの人達やソーシャルワーカー達は優しく私を勇気づけてくれました。REALsのプログラムで私はGBVのフォーカルポイントという重要な役目を担うこととなりました。そこでGBVの啓発活動や予防活動をしています。今、私は人のためになる仕事をしており、自信を取り戻すことができました。もう決して、困惑することはありません。」
3つの国内避難民キャンプで述べ5000人に対して広くGBVについての知識が伝えられたこの事業、まだまだ情勢が不安定な南スーダンですが、一人一人が本来の活力を取り戻し、いずれ平和構築の担い手になってくれることを願ってやみません。
この支援は、特定非営利活動法人ジャパン・プラットフォーム(JPF)の助成と皆様からのご寄付によって行われました。
ご支援ありがとうございました。