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ストリートチルドレンや若者への啓発教育・職業訓練
現地の課題
南スーダンの人々の多くは、20年間におよぶ紛争の中で、国内外への避難や武力闘争への参加を余儀なくされ、小学校すら卒業していません。ジュバ市内で路上生活する子ども・若者の多くは、教育機会がなく、基本的な自己管理・衛生観念・健康管理の社会的知識が不足しているほか、暴力・犯罪・性的暴力の被害者または加害者となる高いリスクに晒されています。
このような子どもや若者は、戦災孤児、未成年の母親、国内避難民、元子ども兵であったり、両親との死別や離別、貧困、病気、家庭内暴力等から必要な保護を欠いていたりすることが原因で路上生活者となっている場合が多く、現時点でジュバにおよそ1万人以上が存在すると推定されています。その多くは学校にも行けず、成人しても職がなく食糧も十分に得られず、ごみ収集所の近辺、木の下、墓場近くなどの衛生面でも劣悪な環境で生活しています。
ジュバ市内でこのような子ども・若者を対象にした支援を行う現地NGO及び現地政府機関の多くは、人材や能力不足の問題を抱えており、充分な支援が実現できていません。更に、各支援分野の活動がそれぞれ単独に実施されているため、現地NGO及び現地政府間の相互連携が欠如し、包括的な支援が実施されていない状況です。
本事業の取り組み
本事業では、上記の課題を改善するため、脆弱な状況にある子ども・若者の支援分野の中でも特に緊急を要する心理ケア、啓発・教育及び職業訓練において、これら支援を実施する現地NGO及び現地政府の能力強化を行います。また、これらの現地NGO及び現地政府間で連携を取りながら包括的な支援を行えるようネットワーク構築・能力向上を支援します。
ストリートチルドレン調査・情報収集
2012年にデンマークの国際NGOがジュバの100名以上のストリートチルドレンを対象に聞き取り調査を行ったところ、半数以上が「自宅があって保護者もいるけれど路上で暮らしている」と回答しました。REALsは、こうした子どもたちの家庭背景に迫るため、2012年8月に、中央エクアトリア州ジェンダー社会開発省の職員、現地NGOであるStreet Children Aidの職員と共同で「ストリートチルドレンの家庭調査」を実施し、ストリートチルドレンの保護者33名への聞き取りを行いました。
「なぜ、あなたの子どもは路上で生活しているのですか?」…それこそが、NGO職員やソーシャルワーカーとして日々ストリートチルドレンと接している調査員らがもっとも知りたいことです。しかし、子どもの衣食住や教育にお金をかけたくてもできず、保護者としての悲しみや無力感に打ちのめされている人々に対して、そのようなデリケートな質問ができるはずはありません。調査員らは言葉を選びながら話をつづけ、ひとつの家庭へのインタビューは1時間から3時間に及びました。その結果、①収入と支出の圧倒的不均衡、②シングルマザー、③親の養育放棄、④非就学、⑤家庭内暴力とアルコール中毒、⑥都会への郷愁、⑦伝統的な家族構成、という状況が、ストリートチルドレンが生まれる要因として判明しました。
この共同事業は社会開発省からも高く評価され、これを契機に、社会開発省、Street Children Aidから各1名ずつがREALsに「出向」して、REALsのスタッフと共に啓発活動を行ったり、元ストリートチルドレンのケアにあたったりしています。REALsは協働を通じて彼らの能力向上を支援しています。
職業訓練・就職斡旋
若者に対してサービス業分野(給仕、調理補佐)の職業訓練・就職斡旋を行っています。2か月間の座学及び実技研修の後、ジュバ市内のホテルやレストランにて1か月間にわたる実地訓練(OJT)を実施します。この訓練では知識・技術の習得のみならず、実際に就業している訓練修了生による講話や、現場での良い例・悪い例を取り上げた寸劇を含めて、就業倫理の理解・定着にも重点を置いています。具体的には、座学の授業では、衛生に関する知識及び食品や飲料の取り扱い、接客の際の心得、上司や同僚とのコミュニケーションの取り方など、実際のホテル・レストランで勤務する際に必要な知識や対応の方法にかかる講義を実施しています。実技では、訓練講師の指導の下、テーブルセッティングや給仕に加えて調理実習を行い、魚の揚げ方、野菜の切り方、肉の炒め方など、10種類以上の厳選したレシピについてトレーニングを行っています。
また、パートナー現地NGO団体であるWomen Self-help Development Organization (WSHDO)などに所属している職業訓練講師補佐が訓練の全課程に参加し、訓練の運営方法について学びました。講師補佐に対しては、講義及び実習を見学しながら、訓練講師と協議した上で講義の一部を担当したり、訓練を実施する際に必要と考えられる重要なポイントにつき記録を付け復習する訓練を行ったりしています。
職業訓練参加者のうち、路上生活者であった若者に対しては、自立を支援するためにシェルターを提供しました。REALs職員が周辺住民に対し本事業の趣旨と活動内容を十分説明し、理解を求め、周辺コミュニティに対し、家庭的なふれあいの中でコミュニケーションを取り、日常生活における家庭指導の支援も依頼しました。このようにして、当該裨益者らが路上生活から抜け出し、シェルター生活においてコミュニティから孤立することなく、同時に家庭的な雰囲気の中で社会生活の規範を身に付けるように配慮しています。
訓練を修了した若者には、就職先を見つけるためのフォローも行っています。また、就職後も定期的に訓練修了生と連絡を取り、職場でのトラブルや悩み事の相談についてアドバイスをすることで、訓練修了生たちが仕事を続けられるようサポートしています。
関連団体のネットワーク構築・能力向上支援
ユニセフや他国際NGOと連携しながら、児童保護を行っている現地政府・NGOの課題を明確化し、各団体の活動内容を共有し、団体の能力向上を図りながら将来的な団体間の連携の計画を立案・実施することを支援するための研修等の活動を行っています。
現地調査事業の結果より、そして再就職支援へ
- 南スーダンでは、昨年末に内戦が始まって以来、不安定な情勢が続いています。そこで、REALsが今まで実施していた職業訓練事業のニーズ調査を開始しました。2014年4月/5月と職業訓練の修了生、ホテルやレストランのマネージャーと南スーダン労働省の職業訓練局長を対象にインタビュー調査を行ったところ、ホスピタリティ産業における雇用の厳しい状況が明らかとなりました。
- 固定的な外国人顧客のいないホテル等では、紛争の影響で顧客数が減少しており、調査時点で仕事に就いていなかった修了生の約4割は、勤務先の経営悪化が原因で仕事を失っていました。
- 元修了生のA君もその1人です。
- 「ホテルでしばらくウエイターとして勤務していたが、紛争が始まると、お客さんがいなくなってしまい、人員整理が行われ、仕事を失いました。1週間後に戻って来てよいと言われましたが、それから5ヶ月経った今でも呼び戻されていません。他のホテルに応募しても、営業状態がよくなるまで待ってくれと返事をもらうだけです。せっかくホテルの仕事を学んだので、働く機会が欲しいです。」
- さらに、職業訓練局長へのインタビューによると、全般的にホテルやレストランの主要顧客である外国人顧客の減少により売上げが落ち込んでおり、また紛争開始後には新規投資が目立ってみられないことも明らかとなりました。
- このように、特に固定的な外国人顧客がいないホテルやレストランにおける雇用拡大は見込めず、今後すぐには新たなホテルやレストランが南スーダンで建設されることも期待できない状況となっていることが判明しています。またJCCPの職業訓練プログラム最大の強みであるきめ細かい指導をするためには、邦人職員が遠隔で事業を行う現在では実現が難しく、その為当面の間南スーダンでの職業訓練は中止と判断致しました。
- 一方、元修了生のコメントの中には、引き続き仕事を求める切実な声も聞かれたため、2014年8月、現在職を失っている修了生に再就職に必要な綺麗に身なりを整える為のワイシャツを提供し、彼らが厳しい状況を乗り越えられるようにと応援のメッセージを届けています。
※こちらは民間資金で実施しております。
南スーダン:職業訓練に関する現地調査事業を開始します
- REALsでは、2014年3月31日より、南スーダン共和国の首都ジュバ市内において現地調査を開始します。昨年末以降の若者をとりまく経済・社会的環境や就業の実態、および職業訓練をはじめとする今後の若者支援に関して、現地に調査員を派遣してインタビュー調査やデータ収集を行います。本調査事業は民間資金で実施するものです。
- REALsは、南スーダン共和国が独立する前の2010年より、首都ジュバにて若者への職業訓練・就業支援、また孤児たちに対する衛生啓発など、若者の自立と新たな国の発展に必要な支援事業をおこなってきました。しかし、昨年12月からの南スーダン共和国での戦闘と急激な治安悪化により、事業活動の遠隔運営を余儀なくされていました。
- このためREALsでは、まず現在の若者を取り巻く経済・社会的環境や就業の実態を把握したうえで、いずれ治安情勢が大幅に改善された時に、職業訓練をはじめとしていかなる支援活動が若者に対して必要になるのか、2か月間の予定で現地調査を実施することにしました。
- 今回の現地調査は、主に下記の2点に絞って行われる予定です。
- ① 過去の職業訓練修了生の就業状況確認、および訓練修了生就職先への聞き取り調査。
- ➢訓練修了生の主な就業先は、首都ジュバ市内のホテルやレストランです。これらの大半は現在も通常営業していますが、今般の流動的な治安情勢によって、全体的な雇用状況に変化はないか、また就職した訓練修了生の雇用は引き続き維持されているか等を調査します。
- ② ホテル・レストラン等のサービス産業のみならず、今後に成長が見込まれる産業での将来的な雇用、それに関わる職業訓練や就業支援のニーズに関して調査します。
今回の現地調査にあたって、REALsは現地政府当局や提携団体をはじめとしてこれまでに信頼関係を培ってきた南スーダンの人々と協力し、職員・関係者の安全を確保しつつ、平和構築のための活動を継続して参ります。
REALsの職業訓練・就職斡旋の特徴
1.専門技術+職業倫理
REALsでは、調理や給仕の専門技術だけでなく、必ず職業倫理をあわせて指導します。接客の心得、上司とのコミュニケーションの取り方(報告・連絡・相談)、時間厳守、整理・清潔・整頓など、社会人としての基本的な心構えを徹底して指導するので、REALsの職業訓練の卒業生は勤務態度が良好だと評価されているのです。
2.急成長するホスピタリティ産業との強固なネットワーク
REALsでは、ジュバ市内63か所のホテルやレストランと提携し、職業訓練の場を提供してもらったり、就職先の斡旋を行っています。独立後の南スーダンでは、援助関係者やビジネス関係者の外国人の急増をうけて、ホスピタリティ産業の成長が顕著です。REALsは、こうした有望な新興ビジネス分野に注目し、職業訓練や就職斡旋を行っています。
3.丁寧な就職指導とこまめな就職後フォローアップ
REALsでは、就職指導を丁寧に支援するだけでなく、就職後も現地職員がこまめなフォローアップを行います。就職指導では、面接の設定を手伝ったり、質疑応答の練習をしたり、面接に臨む際の服装など多岐にわたって助言します。就職後は、卒業生の勤務状況を確認したり、上司との関係や仕事に関する悩みも聞き、勤務が継続できるよう粘り強く支援します。そのため、現地職員にはカウンセリング技術の基礎を学ばせて、いつでも卒業生の相談に対応できるようにしているのです。
職業訓練を通して、若者の自立へ
2011年に独立した南スーダン共和国首都ジュバでは、長年に渡る紛争のため、読み・書き・計算などの基礎教育が十分に行き渡っておらず、教育機会を得るはずの子どもたちは、孤児であったり、家庭内暴力被害者であったり、国内避難民・帰還民、元子ども兵、未成年の母親、貧困層であるなど、多種多様な事情を抱えています。
中には、結果として、路上生活またはそれに限りなく近い反路上生活を送る子ども、そして若者(ストリートチルドレン)も少なくなく、ジュバ市内で1万人以上と推定されています。彼らは、物乞いやゴミ集めをして日銭を稼ぎながら、住まいがゴミ収集所の近辺、木の下、墓場近くであるなど、非常に劣悪な生活環境にあります。
こうしたストリートチルドレンを含む子どもや若者のほとんどは、必要な保護を受けられず、学校に行けません。その日暮らしの生活から抜け出すために、手に職をつけることを希望する若者も多いですが、周辺国からの労働者が多く従事する市場において、職を得ることや確かなスキルを身につけることも難しいのが現状です。そのため、社会性を身に付ける機会もなく、無力感や貧困に耐えかねて、犯罪や暴力に手を染める例が後を絶ちません。治安面においても深刻な課題となっています。
そこで、REALsは、犯罪や暴力の被害者となる可能性の高い女性や子どもたちなどに対して、現地政府や現地NGOと共同で啓発を実施すると同時に、路上生活者を含めた無職の若者らに対する職業訓練・就業支援を行っています。訓練では、若者たちが、専門講師によりスキルを身につけると共に、就業の意義を見いだし、就業意欲を高めることも重視しています。「職」を通した社会参加・復帰と経済的自立を促すことにより、若者が犯罪や暴力に手を染める危険性を軽減し、紛争後のコミュニティの安定を目指しています。
現在は、18歳から25歳の若者40名が、成長産業の1つである給仕・サービス業の訓練を受けています。うち、ストリートチルドレンが2名、孤児院出身者が3名います。訓練生は、希望者の中から生活困窮度や就業意欲などを鑑みて、選出されました。40名の訓練は、2013年1月に開始されたところであり、現在就業倫理についての訓練も実施されています。給仕・サービスという、顧客と直接接することの多い職業にとって、スマートな配慮や機転、コミュニケーションは重要な鍵となります。また、「接客の身だしなみ」など、社会常識についての正しい理解も欠かせません。就業倫理研修は、寸劇によるケーススタディを踏まえて、訓練生とREALsスタッフでの議論を通して実施されています。
例えば、とある日の「接客マナー」の講座では、まずREALsスタッフが「悪い接客の例」、「良い接客の例」の2パターンの寸劇を演じることから始まります。「悪い例」では、料理を待たされた客にクレームをつけられたウェイターが、逆上して客につかみかかってしまう例。日本ではありえない光景ですが、自分自身が接客を受けたことがなかったり、喧嘩することに慣れてしまっている貧困層の若者は、上司や客に対して乱暴な態度に出てしまうこともあるのです。一方、「良い例」は、マネージャーと相談した後、お詫びの品として別のドリンクを提供するというものです。勿論、これらは一例で、極端な比較ではありますが、寸劇を使うと、訓練生も積極的な反応をみせます。しかし、寸劇後、「何故、客は怒ったと思うか」と訓練生に尋ねると、なかなか答えが返ってきません。訓練生の多くは、こうした研修は初めてです。少し経つと、「30分待たされたから」という声が聞こえてくるようになります。そこから、「何故、掴み掛かってはいけないのか?」、「では同じような事態に直面したときに、どうすれば良いのか?」、スタッフは訓練生に1つ1つ問いかけていきます。このようにして、講義形式で就業倫理を学ぶのではなく、「自分で考える」ということを基本理念に、研修を実施しています。
今期訓練生の先輩にあたる前回の訓練修了生36名のうち、復学などの別の進路を選んだ男女9名を除くと、就職率は85%と良好です。23名の訓練終了生は、ホテル・レンストラン9箇所にそれぞれ就職が決まり、業務に励んでいます。訓練終了生の高い勤務評価を受け、今期訓練生の派遣要請を受けている例もあります。今期訓練生も、前回生に続くよう、さらに充実した訓練を実施して参ります。
ストリートチルドレンは、なぜ生まれるのか?
南スーダンの首都ジュバの周辺には、とても多くの子どもや若者たちが路上で生活しており、REALsは2010年から彼らへの支援活動を続けています。REALsは、直接にシェルター(簡易住居)や職業訓練の機会を提供するほか、ジュバで同じようにストリートチルドレンの問題に取り組む現地NGOや現地政府との情報交換や共同事業を通じてネットワークを強化し、より包括的かつ効果的な支援を目指しています。
そのために重要なのが、私たちが支援をする子どもたちの状況を的確に把握することです。今年の初めに、デンマークの国際NGOがジュバの100名以上のストリートチルドレンに聞き取り調査を行ったところ、半数以上が「家はあり、保護者はいるけれど、路上で暮らしている」と回答しました。
REALsは、こうした子どもたちの家庭背景にさらに迫るため、今年9月に、子どもたちの家庭を訪問して聞き取り調査を行いました。まず、REALsが普段の活動で行っているように、路上で生活する子どもたちに話を聞き、家族がいると答えた子どもの家を訪問し、1件あたり約2時間のインタビューを、33家庭に対して実施しました。REALs南スーダン事務所の職員のほか、現地NGOであるストリート・チルドレン・エイドのスタッフ、南スーダン政府社会開発省の職員も調査員として一連の調査に参加しました。
長いインタビューを通じて、子どもたちの先にいる両親や家族が抱える根本的な問題が浮かび上がってきました。
8歳の男の子サントは、家を出て路上で暮らし、市場の残飯を他のストリートチルドレンたちと一緒に探し回る生活をしています。まだ幼くて仕事にも就けないなか、自分で食べ物を探して生きています。
サントの母親であるジョゴ(34歳、女性)は、家庭内暴力を振るう夫に家を追い出され、2004年に夫と離婚し、仕事を求めて郊外のムルチ村から首都ジュバに3人の子どもと移って来ました。酒の醸造や落花生の皮むきの仕事をしていますが、収入は1日に20南スーダンポンド(約580円)程度。物価が高いジュバでは、家を借りることも、子どもたちを学校に通わせることもできないどころか、食べ物も十分に与えられずにいます。スラム街にある共同墓地で寝泊まりをする生活ですが、南スーダンでも、墓地には死者の魂が出ると信じられており、子どもたちは家を出ることを選んだのです。
別の少年サミュエル(男子、13歳)も、家にいても食料がないため、日中は市場のレストランの残飯をもらって空腹をしのぎ、ゴミ捨て場から空のペットボトル容器を拾い集め、それを売ってお金にしています。そうすることで、家族の収入の足しにしなければならない背景があるからです。
サミュエルの父親のアンジェロ(32歳)は、奥さんと4人の子どもを持ち、現在、首都ジュバにて医療助手になるための訓練を受けています。大工や精肉など不定期の仕事を通して収入を得ていますが、学校の授業料も払えないため、子どもたちは学校に通っていません。成長期の子どもたちが、一日中何も食べられずに過ごすこともあります。家や土地もなく、家族全員が家畜のヤギと同じ場所で寝泊まりしています。
これらは、調査で明らかになったことのごく一部で、このほかにも紛争の爪痕から発生する問題は多数あります。戦争で家族を亡くしてしまった子ども。両親ともに元兵士で、現在は無職という家庭。貧困と生活の苦しさから、質の悪い違法酒を飲んで暴力を振るう親から逃れて路上に済む子どもたち。
同じストリートチルドレンの家庭でも、それぞれの家庭が抱える問題の種類と根深さはさまざまです。今回の調査結果は現在分析中ですが、具体的な現状把握ができるほか、子ども、家族、コミュニティごとに必要な対策を考えるうえで重要な情報となります。
今回の調査に参加した南スーダン社会開発省は、「REALsの調査は省内でも話題になっている。本来なら政府が実施すべき支援を、REALsなどのNGOに肩代わりしてもらわざるを得ないことにもどかしさを感じる半面、深く感謝している。報告書が完成次第、どの団体がどんなアクションを取って問題解決していくかを関係者と議論したい」と話しています。
ジュバのストリートチルドレン問題は根深く、ひとつひとつのNGOにできることは、一握の砂のようなものです。組織を超えて同じ問題に取り組む者同士が協力し合うことが不可欠です。この調査をきっかけとして、浮かび上がってきた課題を政府関係機関やNGOのあいだで共有し、今後、どのような支援ができるか、ともにアイデアを出しあっていく予定です。
子どもの健康を薬物から守る
南スーダンは20年以上続いた内戦ののち、2011年7月にスーダンから独立をしました。しかし、首都ジュバではいまだに身を寄せる場所のない子どもたちがストリートチルドレンとして路上で生活する状態が続いています。彼らは孤独や空腹からくるストレスを発散するため、薬物(接着剤)の吸引や暴力を常習としています。また生きるために犯罪を繰り返しており、人間性・社会性が大きく失われています。
REALsは、こうした路上生活をする子ども・若者グループに対し、犯罪の回避、薬物の乱用防止についてコミュニティモビライザーといわれる啓発を担当する現地職員が啓発活動を行っています。今回は、ジュバにおけるとある日の啓発の様子をお伝えします。
ある日の子どもたちへの啓発セッションのテーマは、「薬物吸引の危険性、そして誘いの断り方」についてでした。薬物の吸引が子どもの身体にどれだけ危険であるかを示し、仲間からの薬物の誘いに対してどのように断るかを学びます。 セッションの最初は、コミュニティモビライザーのアブラハムの説明から始まりました。ナイル川の両岸に架かった橋と川の中に大きな口を開けて獲物が落ちてくるのを待っているワ二のイラストを子どもたちに見せます。
「橋とワニの間にはネットが張られていますが、橋は今にも壊れそうな状態です。今、子どもたちはこの橋を渡らなければいけません。気をつけて渡らないと落ちてワニに食べられてしまいます。しかし、万が一、落ちたとしてもネットがあればワニには食べられずに助けることができます。」このイラストでは、橋(子どもたちの困難な生活環 境)、ワニ(薬物)、橋とワニの間にかけられたネット(知識・薬物吸引の誘いを断る勇気・仲間やコミュニティからの助け)などの例を挙げながら、薬物の怖さを他の子どもたちに伝えたり、薬物を吸引している友達にやめるように進言したり、また、誘われたら断るようにと説明します。アブラハムは親しみやすいように笑いながら説明しますが目は真剣です。彼は、薬物吸引を止めることを心から願って活動をしています。
次に、コミュニティモビライザーと参加者による仲間から接着剤の吸引を勧められた場合にどうやって断るかについて寸劇が始まります。コミュニティモビライザーのアブラハムが接着剤の吸引を友達に勧める役を演じます。友達役は参加者の一人でリーダー格の少年アケッチです。彼は、2週間前にREALsが行った啓発活動に参加し、接着剤の吸引を止めたばかりです。アブラハムは、ペットボトルから接着剤を吸引する真似をして、酔っぱらいのおじさんのようにフラフラ歩きます。その光景がおかしくて、見ている子どもたちは大歓声を上げます。アブラハムはアケッチをしつこく誘います。アケッチも最初は笑いながら断っていましたが、繰り返し誘ってくるアブラハムに対して真剣に断り、声も高まってきました。二人ともなかなかの演技で、見ている子どもたちも声援を送りながらも一生懸命見入っています。やがて、寸劇はアブラハムが逆にアケッチに説得され、接着剤が入ったペットボトルを捨てるということで終わ り、子どもたちからも拍手が湧きました。
寸劇を見ていた子供たちの多くは、接着剤の吸引がいけないということ、それが身体に悪影響を及ぼすことは頭では理解していますが、路上生活での不安や孤独、空腹などを紛らわすために薬物に手を出してしまう彼らにとって、実 行に移すのはなかなか難しいのが現実です。このような活動を根気よく繰り返すことによっていつか彼らが薬物吸引をやめるよう促しますが、同時に必要なのは生活を立て直す支援です。
※この事業は、REALs会員や寄付者の皆様からのご支援と、独立行政法人 国際協力機構(JICA)からの委託、および公益財団法人日本国際協力財団(JICF)からの助成により実施しています。
スラムの若者たちへの職業訓練
REALsでは、南部スーダンの首都ジュバで路上生活をするストリートチルドレンやスラムに暮らす若者に対し、職業訓練を実施しています。
職業訓練では、ホテルやレストランなどに就職するスキルを身につけるため、ハウスキーピングや給仕のトレーニングを行っています。
<5/12卒業式の報告>
2011年5月12日には、事業開始から数えて第3期目の訓練生の卒業式が行われました。当日は、南部スーダンの労働省局長や関係者、訓練生の保護者が出席し、修了証の授与式のほか、卒業生による劇、合唱、スピーチ、が披露されました。
修了証が授与されると、皆嬉しそうに受け取り、雄叫びをあげる卒業生もいました。花のレイをお互いの首に掛け合い、仲間と共に訓練を終えたことを祝っていました。
毎回の卒業式では、訓練生による劇の上演と合唱が恒例になっています。今回の劇では、給仕コースの卒業生が職業訓練を通じて学んだことを元にして、良い職場・悪い職場について表現しました。劇の内容は全て卒業生たちが創作したものです。卒業式までの間、時間をみつけては台詞を覚え、集まって練習を行いました。
ハウスキーピングを学んだ卒業生による合唱では、職業訓練の機会を得られたことに対する感謝の気持ちを歌詞に込めた、オリジナルの歌が披露されました。
式中、以前はストリートチルドレンであった青年が卒業生代表としてスピーチを行いました。かつての路上での暮らしの様子、訓練に参加することによって生活が一変したこと、そして今後の抱負を語り、会場からは盛大な拍手が送られました。決意を新たにした卒業生たちは現在、それぞれの道で奮闘しています。