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若者の過激化を防ぐための仕組みづくりと人材育成~心理社会的コミュニティワーカーへの起業支援~
ケニアの暴力的過激主義の現状
ケニアでは、暴力的過激主義によるテロ事件が後を絶ちません。昨年の1月には、ナイロビの複合商業施設でテロ事件が発生し、21人が犠牲となりました。REALsが活動するイースリー地区でも不安定な治安情勢が続いています。イースリー地区は、隣国ソマリアや国境沿いなどから流入する過激派組織の活動の温床と見られており、治安当局による厳しい取り締まりの対象になっています。このような取り締まりへの不安に加え、雇用機会の不足、悩みや問題を相談できる場の欠如などにより、社会への不満や人生への絶望感で多くの若者が苦しんでいます。このような若者たちは、必ずしも過激な思想を持っているとは限りません。貧しさ、不満、絶望感から過激派組織や犯罪組織の誘いに乗ってしまったり、そこに自分の居場所を見つけたように思ってしまうことが問題となっているのです。また、過激派組織や犯罪組織による勧誘手口も巧妙化しており、奨学金の授与、物的支援、結婚相手の紹介などを入り口とし、そこから貧困層の若者を勧誘するケースも増えています。若者たちの暴力的過激化を防ぎ、コミュニティの平和と安全を確保するためには、これら多様化する過激派組織の動きに応じた方法で、コミュニティに根差した持続可能な仕組みを構築する必要があります。
暴力的過激化を予防するためのREALsの取り組み
REALsは、若者たちが主体となり、同じコミュニティの若者の過激化を予防する取り組みを支援しています。その一つが、心理社会的コミュニティワーカーの育成です。コミュニティの中から選ばれ、REALsによる基礎技能研修を修了してカウンセリングに関する知識と技術を習得した30人の若者たちは、コミュニティの住民を対象にした心の相談窓口として活躍しています。これまでに、990回のカウンセリングセッションが行われ、のべ391人の住民がその対象となりました。相談内容は、主に家族との離別、失業、うつ病などがありますが、暴力的過激化を予防したケースもあります。
異なる宗教、民族同士の対立を予防した事例
23歳の女性は、イースリー地区で発生した暴力的過激派組織によるバス襲撃事件の被害にあったことから、バスに乗ることがトラウマとなり、イスラム教徒やソマリ系住民に対して一方的な嫌悪感を抱くようになってしまいました。コミュニティでの異なる民族同士の対立は、次なる暴力の被害者を生み出しかねません。そこで、心理社会的コミュニティワーカーは、カウンセリングを通じて、イスラム教徒、ソマリ系住民のみなが暴力的過激化の思想を持っているわけではないこと、彼らがテロを支援しているわけではないこと、彼らの中にもテロや暴力的過激化の被害者がいることを彼女に理解してもらいました。心理社会的コミュニティワーカーによる継続的な支援により、彼女のイスラム教徒やソマリ系住民に対する憎しみいや嫌悪感はなくなり、今ではトラウマを克服してバスにも乗れるようになりました。
暴力的過激派組織からの勧誘を断ち切った事例
33歳の男性は、暴力的過激派組織に加わった友人から盛んに電話で勧誘を受けていました。その度重なる勧誘に対するストレス、断り切れずに勧誘された時の恐怖心、そしてその友人への怒りを抱いていました。誰にも相談できずに悩んでいた彼は、心理社会的コミュニティワーカーの活動を知り、カウンセリングにやってきました。カウンセリングでの話は個人情報として守られること、心理社会的コミュニティワーカーが継続的に支援してくれることを理解した彼は、カウンセリングを始めました。心理社会的コミュニティワーカーは、何よりもまず、立ち向かう勇気を身に付けるためのカウンセリングを行いました。その結果、彼は勧誘してくる友人との関係を終わらせる決意を固めることができました。電話番号を変更し、引っ越しもし、今では友人からの連絡は一切なく、安心して生活できるようになりました。彼は、将来また勧誘されることがあっても、Noと言える強さをもつことの大切さを学びました。
心理社会的コミュニティワーカーへの起業支援
そんな心理社会的コミュニティワーカー30人が、住民の心の窓口となり、REALsの事業終了後もボランティアとして活動を続けていくためには、まずは彼ら自身の経済的自立が果たされなければなりません。そこでREALsが現在行っているのが、心理社会的コミュニティワーカーの起業支援です。
起業に必要な知識を身に付けるために、ビジネスの基本的な考え方、ビジネスの基となるニーズの発掘方法、市場調査、ビジネスプランの立て方、収益の上げ方、会計管理などを学ぶ研修を行いました。そして、それぞれが考えるビジネスの起業に必要な最初の投入財がそろった段階で、実際の起業となります。イースリーでの事業の開始から2年目の終盤となる現在までに、15人が起業することに成功しました。
心理社会的コミュニティワーカーによる起業
キャサリンは、キオスク(日本の駅のキオスクのような常設屋台の小売店)の経営を始めました。まずは、店を構えるための場所をイースリー地区で探しましたが、幸いにも、無償で土地を提供してくれる人に出会いました。賃料の負担がないのは大きな助けになるため、その場所でキオスクを始めることを決めました。開始後、徐々に扱う商品を増やしていったキャサリンですが、彼女なりに分析し、これからは暑い日に売り上げが伸びるジュースやアイスの販売を増やしたいと考えています。REALsは、彼女のアイディアの実現に必要な、冷蔵庫の購入を支援することとしました。これにより、さらなる収入の増加が期待されます。
ジョナサンは、家事代行サービスのビジネスを始めました。イースリー地区では家事代行サービスの需要が高いにも関わらず、それを稼業としている人が少ないことに目をつけたのです。このサービスでは、衣類の洗濯、部屋の清掃ベッドメイキングなどをカバーします。REALsは、このビジネスで必要な洗濯機の購入を支援することとしました。これまでは手洗いでやっていた洗濯も、洗濯機の導入で仕事の効率が上がり、空いた時間を別のサービスに充てることができるようになります。使う水の量も減り、コスト削減も期待できます。徐々にですが、お客さんも増えつつあり、今後の成長が楽しみです。
心理社会的コミュニティワーカーが安定的な収入を得られるようになることは、彼らによる心理社会的支援活動の継続の大前提です。この起業支援により持続的に活動が継続され、孤独感や喪失感に悩まされるより多くの人々に手を差し伸べることができるようになって欲しいと願っています。そして、若者たちがあらゆる勧誘や誘惑を自らの意思で乗り越え、過激化に染まらない社会を実現する、それこそがREALsの目指すものです。
REALsは、ケニアの若者たちを主体とした過激化予防の取り組みを今後とも続けてまいります。これからも、皆さまのご支援をよろしくお願いいたします。