キアンビウ・スラム:コミュニティ平和構築

認定NPO法人REALs(リアルズ:旧日本紛争予防センター)は争いを予防し、人と人が共存できる社会をつくる国際NGO。ご寄付は寄付金控除の対象になります。

活動レポート

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キアンビウ・スラム:コミュニティ平和構築

キアンビウについて

キアンビウ・スラムは、首都ナイロビの東側に位置する比較的新しいスラムです。約6万人(活動時)が居住していますが、複数の民族が混在して生活しています。多くの人々は職がなく、貧困に苦しんでおり、アルコールや薬物中毒、強盗、泥棒、時には拳銃・小銃等の小火器を使用した犯罪が発生します。また、異なる民族間の対立や相互不信によって若者の間で暴力事件が頻発しており、2007年後半から2008年初旬に大統領選挙の結果をめぐって激しい暴動が起きた地域でもあります。特に女性や女の子は犯罪や暴力の被害者となりやすく、キアンビウでは、性暴力や家庭内暴力等の事件が頻繁に報告されています。

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事業について

このような中で、本事業はコミュニティ内での治安改善に努力する人々の能力強化を行っています。住民自身が紛争の火種を察知し、警察や現地政府と協力しながら、対立する当事者に対して仲介や仲裁を行えるよう訓練を行います。また、別の住民に対しては、コミュニティ内でカウンセリングをしたり、医療・福祉・教育等の必要な支援先への紹介ができるようになる訓練も行います。これら2つのアプローチによって、紛争を未然に防ぎ、暴力や紛争の被害者(また加害者も)のトラウマがやわらぎ、暴力の連鎖が断ち切られ、新たな紛争が起こりにくい街づくりにつながることが期待されています。また、住民自身の治安改善に対する意識を向上させるための取り組みも実施しています。こうしたアプローチに基づき、本事業は特に女性と若者の保護に力を入れています。

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事業の開始

2015年5月、REALsは正式にキアンビウ・スラムの人々とともに新規事業を開始しました。それに際して、紛争を未然に防ぐシステムである「早期警戒・早期対応(Early Warning Early Response: EWER)」及び紛争の被害者への「心のケア(Psychosocial Support: PSS)」に携わる住民、行政関係者、警察官やコミュニティの年長者、教師達を招いてオープニングセレモニーを開催しました。全ての関係者が事業を歓迎し、相互協力を通して民族間の不信感を乗り越えていく必要性を強調しました。

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早期警戒・早期対応(Early Warning and Early Response: EWER)

警察官ジョージの体験談:住民から信頼を得て

ナイロビ市のキアンビウ・スラムには、警察署がありません。近くのイースリー地区という隣国ソマリアからの移民や難民が多く住む地区から、ときどき警察官がパトロールに来ます。ジョージは、そのイースリー地区の警察署の署長で、キアンビウ・スラムを担当しています。

イースリー地区の治安は不安定で、様々な犯罪が起こります。イースリー地区からほど近いキアンビウ・スラムも、ギャングや不法移民に隠れ場を提供しているとみなされています。実際に2014年にソマリア生まれの不法移民が武器などの危険物をキアンビウ・スラムに持ち込んでいたことから、ケニア政府はキアンビウ地区への警戒を強めました。

しかし、警察だけで治安を改善するのは困難です。例えば、住民が警察に対して不信感をもっていると、なかなか協力を得られません。犯罪が起きた時に情報収集が十分できないだけでなく、住民が容疑者をかくまう可能性もあります。また、建物が込み入ったキアンビウ・スラムには抜け道が多くあり、犯罪者が容易に逃走できてしまいます。

そこで、REALsは毎月、警察や他の治安関係者が集まって話し合う場を設けました。集会では、他の治安改善を目的とする団体や地域指導者たちと情報を共有しています。ジョージにとって、この場に集う人たちは重要な情報提供者です。ジョージや他の警官は、機微に触れる情報の取り扱いには十分注意し、情報提供者を保護するために細心の注意を払っています。

ジョージはまた、今までの警察に対する不信感や恐怖心を払拭することに成功しました。REALsが主催した地域住民を交えたフォーラムで、警察の仕事について丁寧に説明したのです。これは住民から理解と信頼を得る最良の機会となりました。その後「住民が自ら積極的に行動を起こすようになった」と、ジョージは住民の変化を実感しています。警察は、住民や治安関係者と協力することで、今まで得られなかった情報を集められるようになりました。「最近、住民からの通報により、スラムに隠れていた3人のギャングを捕まえた」とジョージは誇らしげに語ります。

ジョージはさらに、警察官がキアンビウ・スラムの学校で、子どもたちに安全指導をすることを提案しています。子どもたちが通学中に武器の運び屋や薬物の売人にならないかと誘惑されて、利用されることがあるのです。「そういう状況でどう身を守るか、子どもたちに教えることは有効ではないか。」ジョージはより良い未来のため、今日も警察官としての職務に励んでいます。

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WSA (Women’s Safety Audit)研修

20人のメンバーが女性の目から見た治安の調査(Womens safety Audit: WSA)についての研修を受けました。この研修を通してメンバーは、「ジェンダー」の概念が男女間の単なる生物学的違いのみならず、社会的に固定されたものであり、男女の役割や責任・力関係にも関連することを理解しました。参加者は生活環境が十分に整備され、犯罪が少なく、雇用機会に恵まれた理想のコミュニティの実現のために、男女双方が協力して取り組んでいかなければならないことを学びました。

また、チームのメンバーは、WSAとその重要性・方法論について学んだ後、実際に10日間のWSAを行いました。調査では、女性への街頭インタビューや、集団聞き取り調査、また治安情報に詳しい人々からも個別に意見を聞くなどしてキアンビウの女性が日常生活で治安をどのように感じているかを評価しました。

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心のケア(Psychosocial Support: PSS)

教師クリスタベルの事例:カウンセリング技術を身につけて

クリスタベルは、ナイロビ市のキアンビウ・スラムに住む26歳の女性教師です。2014年から、スラム内のコソボ地区にあるバラカ・アカデミーという学校で教えています。学校には約400人の子どもたちが通っています。

以前は、カウンセリングの技術を持った教師も、カウンセリングを行う場所も学校にはありませんでした。そのため、どの子どもがどのような助けを必要としているのか、分かりませんでした。教師は何か問題が起きるたびに保護者を呼び出していましたが、保護者は日々の仕事で忙しくて来ませんでした。「教師は子どもたちの抱える問題の原因を見いだせず、また子どもたちも教師に心の中を打ち明けることはありませんでした。」と、クリスタベルは当時を振り返ります。

クリスタベルや同様の悩みを持つ教師を対象に、REALsはカウンセリング研修を行いました。研修内容は、基本的なカウンセリング手法から始まり、薬物や虐待、近親者の死などのトラウマを持った子どもへの対処法、児童保護法、絵画などの芸術(アート)を用いたカウンセリングの手法であるアート・セラピーなど、幅広く網羅していました。クリスタベルも研修に参加して、学校で問題を抱えた子どもを助けるための技術や知識を習得しました。

研修後に「カウンセラー教師」として任命されたクリスタベルは、学校の一室をセラピールームとして使えるようになりました。そこで子どもたちが安心してカウンセリングを受けることができるようになりました。

ある日、小学1年生の男子児童デイビッド(仮名)が飲酒しているという情報を、クリスタベルは入手しました。本人に直接たずねたところ「二人きりでなら話しても良い」と答えたので、セラピールームでカウンセリングを行いました。すると、デイビッドの母親が自宅で自家製ビールを売っており、デイビッドは母親に内緒でビールを飲んでいたことが分かりました。そのため2度目のカウンセリングは母親も交えて行いました。母親は息子がビールを飲んでいたことに気づいていなかったため、驚き悲しみました。クリスタベルは、せめてビールの販売場所を自宅から離れた場所に移し、夕方帰宅した後は販売を手伝う人を雇う、という解決策を提示しました。デイビッドは母親とともにカウンセリングを6回受け、飲酒をやめ、クラスでトップの成績を取るまでになりました。

クリスタベルは今後、自分と似たような考えを持つ人々を集め、女の子の支援センターを開設したいと考えています。「10代で性的暴力を受けたり、望まない妊娠をしてしまったりする女の子が増えないよう、女の子が自分で身を守り、自立して生活できるように助けたいのです。」そう言って、今日も子どもたちの心の声に耳を傾けています。

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心のケア(Psychosocial Support: PSS)カウンセリング基礎研修

30人の住民(コミュニティ・アニメーター)がカウンセリングについての基礎的な技術研修を受けました。現在までに5つのセラピー・ルームが設置され、研修を受けたコミュニティ・アニメーターが家庭問題や児童虐待、ジェンダーに基づく暴力や家庭内暴力等の事案について個別カウンセリングを開始しています。また、以前マザレ・スラムでREALs事業に携わった専門的な知識と経験を持つ上級カウンセラー6名が、コミュニティ・アニメーターに対して助言を与えたり、彼らが扱いきれない重大事案に対応したりするなどの支援を行っています。

「早期警戒・早期対応」と「心のケア」双方のチームのメンバーの中には、以前コミュニティでボランティア活動に参加したことのある人もおり、REALsと共に働けることをうれしく思っているようです。REALsは住民自身がコミュニティの治安改善に貢献できる人材となれるよう育成していきます。

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この支援は、外務省のNGO連携無償資金協力の助成と皆様からのご寄付によって行われています。

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