特別ページ「ジェンダーに基づく暴力を防ぐ」
国連グローバルキャンペーン「世界をオレンジ色に:今すぐ女性に対する暴力を終わらせよう!」によせて
11月25日の「女性に対する暴力撤廃の国際デー」から12月10日の「人権デー」までの16日間、国連ではジェンダーに基づく暴力撤廃に向けたグローバルなキャンペーン「世界をオレンジ色に:今すぐ女性に対する暴力を終わらせよう!」を開催しています。
REALsではすべてのプロジェクトで、ジェンダーの視点を取り入れて活動を行っています。このページでは特に、REALsが行っているジェンダーに基づく暴力(Gender Based Violence、以下GBV)を防ぐための取り組みを紹介いたします。
目次
1.トルコおよびシリアで女性や子どもの保護を行う現地市民団体への能力強化の取り組み(トルコ)
2.シリア難民を対象としたGBV予防啓発活動(トルコ)
3.コミュニティ・フォーカルパーソンの育成とGBV予防啓発メッセージのラジオ放送による表面化しづらい暴力の予防(南スーダン)
4.心理社会的コミュニティワーカーの育成におけるGBVについての技能研修と若者へのカウンセリングの提供(ケニア)
1.トルコおよびシリアで女性や子どもの保護を主な活動として行う現地市民団体への能力強化の取り組み(トルコ)
REALsでは2021年8月からUN Women Turkeyが実施する事業の一環として、「女性と少女に対する暴力の根絶」を目指した研修をトルコ、シリアで活動する7つの市民団体に対して実施しています。研修では、性的搾取・暴力の予防、女性と少女に対する暴力根絶を目指す地域的・国際的機関とそれら機関の取り組み、災害とジェンダーなど幅広いテーマを扱い、各参加者が日々の支援で活用できるような内容とする工夫を行っています。
オンラインでの3か国語(英語、アラビア語、トルコ語)による研修ですが、参加者はこれまでの経験や、直面している課題について活発に議論するなど、積極的な参加が見られています。
またこの研修を通して、これまで関わる機会のなかった団体同士が繋がるきっかけを生み出すことができ、彼らのネットワーク構築にも貢献することができています。
2021年11月25日 第1回目研修最終日の様子
2.シリア難民を対象としたGBV予防啓発活動(トルコ)
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REALsでは2016年からトルコ・メルスィン県において、シリア難民を対象とした支援活動を行っており、2018年からはシリア難民への情報提供と個々のニーズに対応した支援を提供する保護事業の一環として、シリア難民に向けたGBVの予防啓発活動を実施しています。
紛争の経験や経済的に厳しい避難生活、またCOVID-19による外出制限の影響によるストレスなどから、シリア難民の家庭では女性や子どもに対する身体的、精神的、経済的、社会的暴力などが高いレベルで確認されており、女児の児童婚が特に大きな課題となっています。REALsでは難民一人ひとりがGBVの負の影響を理解し、予兆や発生に気付いて対処することで、リスクの軽減や早期発見、予防の促進につながることを目指して、啓発のためのセッションの提供や情報発信を行っています。
・GBV予防啓発セッションの提供:
ジェンダーと生物学的性差の違いや、GBVの定義や種類、具体的な負の影響の説明、予防のための取り組み、支援サービスの紹介などを行っています。
2020年11月のセッションの様子
・GBV予防啓発パンフレットやSNSでの情報発信
アラビア語とトルコ語でGBV予防啓発パンフレットを作成し、紙と電子での配布を行っています。また、現地提携団体のSNSアカウントでの情報発信も行っています。
GBV予防啓発パンフレット(上:アラビア語、下:トルコ語)
■トルコ・メルスィン県:
トルコ南部に位置するメルスィン県には、岩手県程度の面積に約180万人が暮らしており、そのうち約21万人がシリア難民として登録されています。難民の対人口比が約13%とトルコ国内第4位の水準である一方、同県で活動している支援団体の数は他県と比べて圧倒的に少なく、より一層の支援が求められています。
REALsはメルスィン市内にプロテクションセンター兼事務所を設けており、メルスィン市内4地区とエルデムリ地区において活動しています。2021年9月からの新事業では、特に支援の手から取り残されている難民が多く居住するエルデムリ地区に相談所を開設することで、より多くの難民に支援を利用してもらえるよう働きかけを行う予定です。3.コミュニティ・フォーカルパーソンの育成とGBV予防啓発メッセージのラジオ放送を通じ、表面化しづらい暴力を予防(南スーダン)
南スーダンでは、度重なる紛争のなかで女性や子どもの多くが、心の傷や家庭内暴力、GBVの影響を受けています。なかでも国内避難民キャンプでは、コミュニティの治安問題やCOVID-19により、保護支援へのアクセス低下や経済的困窮が深刻化しており、GBV、家庭内暴力などの隠れた暴力問題が大きくなっています。
REALsは、表面化しづらい暴力をコミュニティ自身が発見し、また対応・予防できるようにするため、首都ジュバ市近郊のマハド地区、グンボ地区、ウェイ・ステーション地区の国内避難民キャンプにおいて、コミュニティ・フォーカルパーソンの育成、また住民に向けたラジオによるGBV予防啓発メッセージの放送を行っています。
・コミュニティ・フォーカルパーソンの育成
コミュニティの定期的な巡回や住民への啓発活動、争いの調停を通じて、暴力・紛争やその予兆を把握し予防できる人材として、国内避難民や地元住民をコミュニティ・フォーカルパーソンと命名し育成しています。コミュニティ・フォーカルパーソンは、主にREALsの過去の事業で育成された同地区の指導者や若年層の代表たちから、継続してコミュニティに貢献する意欲の高い人物が選ばれており、事業終了後もコミュニティのために活動することが期待されています。育成することで「人」を変え、彼らがコミュニティ主導で争い解決・予防・軽減の「しくみ」を変え、そしてそれらが「社会」を変える、REALsのアプローチが効果を生んでいる活動です。
2021年10月のコミュニティ関係者との調整会議の様子
・ラジオによるGBV予防啓発メッセージの放送
南スーダンでは、古くから地域に根付く社会通念からGBVをはじめとする暴力への誤った認識が広まっています。自身が被害者/加害者であることに気づきにくい人を主な対象に、3地区でGBV予防啓発のラジオ放送を行い、GBVの問題・予兆や支援へのアクセス方法を伝えています。国内避難民キャンプでは困窮から携帯電話を持たない家庭があるため、広く聴収されているラジオが啓発手段として選ばれました。この放送を通じて、これまで暴力と認識していなかったために被害を受けていた人々が、自身でも予防に努めるようになるなど、大きな反響をよんでいます。
■南スーダン・ジュバ市近郊マハド地区、グンボ地区、ウェイ・ステーション地区
南スーダンの首都、ジュバ市は支援を必要とする人の数が国内でも最も多い地域の一つです。国内避難民とホストコミュニティの住民の間では不足する資源や居住環境を巡る対立が発生しており、集団間の緊張や治安悪化の原因となっています。
地区により特徴は異なりますが、国内避難民キャンプのなかでも民族や流入した時期によって集団が形成されており、緊張状態が生まれているケースがあります。また、内戦により男性の人口比率が下がっていることから、基本的にすべての地区で女性の割合が高くなっています。
REALsでは上記3地区に加え、2021年10月より国内避難民とホストコミュニティ住民の対立が激化しているマンガテン地区において、両者の共同作業を通じて対立緩和と平和的共存、治安の改善を目指す事業を開始しました。
4.心理社会的コミュニティワーカーの育成におけるGBVについての技能研修と若者へのカウンセリングの提供(ケニア)
2018年3月から2021年5月までの3年間、REALsではケニア・ナイロビ市イースリー地区において、心理社会的サポートを提供するコミュニティワーカーの育成と、彼ら/彼女らにより同地区の若者にカウンセリングが提供される仕組みづくりを行いました。同地区ではテロ組織など過激派組織や犯罪組織に若者が勧誘されるリスクが高く、若者が抱える課題を見つけ対処することで若者の過激化を初期段階で予防することを目指しました。
最後の1年はCOVID-19の流行に伴い、若年妊娠や家庭内暴力の問題が増加し、個人/グループカウンセリングでもGBVに関する相談が多く寄せられました。REALsではGBVを必要度の高いテーマの一つとして心理社会的コミュニティワーカーに技能研修を行い、2020年3月~2021年5月だけでも約70名のGBVに関する相談に答えています。
REALsが育成した心理社会的コミュニティワーカーには、事業終了後も他の支援団体や地域の学校から暴力的過激化の予防やGBVについての啓発・説明の依頼が来ており、現地コミュニティにおける信頼と評価を獲得しています。
2020年9月 技能研修を受ける心理社会的コミュニティワーカーの様子
コミュニティ内に設置されたセラピールームの外観
REALsが育成した心理社会的コミュニティワーカーには、事業終了後も他の支援団体や地域の学校から暴力的過激化の予防やGBVについての啓発・説明の依頼が来ており、現地コミュニティにおける信頼と評価を獲得しています。
■ケニア・ナイロビ市イースリー地区
ケニアではアル・シャバーブなどの暴力的過激主義による事件が多く発生しており、首都ナイロビ市イースリー地区は隣国ソマリアやダダーブ難民キャンプなどから流入する過激派組織の温床と見られています。
テロ対策を行う治安当局の取り締まりのなかには、特にソマリ系住民を対象とした過度なものも発生しており、治安当局に対する恨みや恐怖、また雇用機会の不足による経済的困窮、悩みや問題を相談できる場の欠如などが、若者の社会への不満や人生への絶望感につながり、過激化のリスクを生み出しています。